ひろば171号 福島第一原発事故 〜今後の生活上の注意点〜

胸部写真

事故の規模・実態は?

大震災、福島第一原発事故の発生から早くも6ヶ月になりました。原発事故の規模はチェルノブイリ原発事故と同一のレベル7と認定されてしまいました。事故の認識がそこまで至っても、我々はチェルノブイリ原発事故に比してまだ放出放射能の総量は約10分の1程度であるとの報道を信じて来ました。つまり、まだ最悪の事故よりはましなのだ、と自らを慰める気持ちがなかったと言ったら嘘になりませんか。しかしその認識は本当に正しいのか、極めて疑問だと思います。なぜなら掲げた胸部X線写真は当院で今年の3月18日に撮られたものです。患者さんに問題があるのではなく、矢印で示されたものは環境中の放射能からの感光です。普段は全く見られないものが、原発事故後の10日間ほど見られました。つまり、環境中に漂っていた核種から感光したものと考えられるのです。私は以前放射線管理区域内で核種を使った実験をしていたことがありましたが、その時に環境中の放射能から感光することは経験していません。今回の事故ではこの水戸においても、放射線管理区域での被曝を上回る可能性が十分にあったと判断せざるを得ないのです。

そのように考えていた時期に、放射能汚染された稲藁を給餌された牛のセシウム汚染が表面化しました。これは事故当初の報道を遙かに上回る汚染の広がりを感じさせます。多くの国民が、今まで事実を隠蔽されていたと考えているのではないでしょうか。今後の食糧問題に対しては、我々の直面している原発事故がチェルノブイリ原発事故に並ぶ規模になっていることを前提にして十分に注意していく必要があるのです。




無責任体質


1.マーク1型炉

今回の福島第一原子力発電所の1号機から5号機までは米国ゼネラル・エレクトリック社が基本設計した沸騰水型原子炉マーク1型炉といいます。確かに米国内で稼働していますが、それは地震のほとんどない米国東部から中部であり、カリフォルニアなどの地震の多い地区での稼働実績は皆無のモデルです。しかも今から約三十年前に全電源喪失となった場合に、格納容器の容積が小さいため安全性に余裕がなく、水素爆発の危険が大きいと指摘されていたモデルなのです。それを地震国において設計寿命の三十年を超えて使い続けていたのです。そしてさらに驚くことには、格納容器の破裂を防ぐために行うベント(蒸気の大気への放出)という作業の手順書もなかったのです。これでは停電の真っ暗闇でベント作業に手間取るのは当然です。準備不足には唯々呆れるばかりです。


2.事故の認識

例えば以下のことを想像してみてください。我々医療者がある患者さんに医療行為をします。その医療行為が既に三十年前に外国で危険性を指摘されていた医療行為であり、それを知ってか知らずかは関係なく、患者さんの生命に危険が及ぶ結果を招いたとします。その場合に、果たしてどのような対応をされるでしょうか。当事者の患者さん、その家族からどうして最新の知識に基づいて医療をしなかったのかと責められ、場合によっては民事訴訟を提起されます。または、業務上過失傷害あるいは致死として告訴される可能性も大いにあり、警察に逮捕されるかもしれません。それ以前に医療者のモラルとして、最新の医学知識にアップデートしていなかった自らの勉強不足について自責の念に強く苛まれることでしょう。しかるに今回の原発事故を巡っては責任者の態度はどうでしょうか。原子力安全保安院の前院長の談話が先日報道されましたが、全く他人事です。自責の念に苛まれるような日々を送っているようには到底見受けられませんでした。政府首脳しかり、東電首脳しかりです。つまり、事故の検証はこれから本番ですが、少なくとも現在までに本当に責任感あるトップは見当たりませんから、これらの人々が大丈夫と言ったとしても、極めて怪しいと疑ってみる必要があるということです。したがって、今問題になっている食糧問題は極めて大切です。これからの日本の未来を担う子供たちの健康に大きく関わることだからです。



食料問題

長々述べてきましたが、さていよいよ本題の食糧問題です。セシウム汚染牛肉の問題が出たときに、ブランド牛を安く食べられるから流通させてくれないかと密かに思っていた方、心して読んで下さい。


1.内部被曝

内部被曝とは放射性物質を体内に取り込んだ場合の被曝のことです。以下の諸点で外部被曝と異なります。

  1. 外部被曝は、ほぼガンマ線のみですが、内部被曝は核種から人体内の細胞までの距離が極めて近いためアルファ線、ベータ線もその障害に加わります。
  2. 外部被曝はヨウ素131、セシウム137が主体ですが、内部被曝にはベータ線のみしか出さないためその検出が困難なストロンチウム90が加わります。
  3. 体内ではカルシウムと挙動が似ていて骨に蓄積しやすいとされるストロンチウム90は、セシウムが存在すればまず間違いなく存在すると言われています。
  4. 体内被曝はたとえ低線量でも体内の局所からの集中的継続的な被曝であり、外部被曝よりも危険とされています。
  5. ホールボディカウンターでストロンチウム90は検出不可能のためもあって、一般にはまだあまり報道されていません。
  6. セシウム137は最悪体内に取り込まれても約100日でその半数が体外に排出されますが、ストロンチウム90は骨に取り込まれた場合に生物学的半減期は五十年とも言われています。

内部被曝はセシウム137もストロンチウム90も考慮しなければならず、その恐ろしさは少しご理解いただけたのではないかと思います。


2.放射能汚染

農林水産省は既に3月19日に「事故発生前に刈り取った飼料を牛の給餌に使う」などの内容で、東北関東の各都県に通知を出していました。しかし、それが徹底されず畜産農家によっては屋外で保管されていた稲藁を牛に与えてしまいセシウム問題が発生しました。随分とセンセーショナルに報道されましたが、今では全頭検査を行いセシウムの暫定基準値以下の肉しか市場に流通しないようになっています。それでは牛肉以外の食料品はどうでしょうか。

3月の原発事故直後は、福島県、茨城県などで、ほうれん草、カキナ、原乳などが出荷制限を受けました。現在では各都道府県の農林水産部が実施主体となり、野菜、乳製品、肉、卵、水産物の放射性物質の測定結果をネット上に公開しています。セシウムの暫定基準値を超えるものは出荷制限され市場には出回らないことになっています。


3.求められる根気強さ

では我々はどのように対応すればよいのでしょうか。それには、まずこのように放射性物質を気にした生活を今後何年間も続けなければならないと腹を括ることです。今年の問題だけではありません。今後何十年間も、一説では三百年間もだそうです。

しかし、食材への対応は人により千差万別だと考えざるを得ない事実を知らされました。それは、私がこの記事を書くに当たって当院の女性職員二十人ほどに話を聞いた結果からそのように判断せざるを得なかったからです。以下はもしかしたら当院の女性職員固有の事情で、一般に敷衍するのは早計かもしれません。その批判は甘んじて受けるつもりで少し断定的に書きます。まず、女性は日常の買い物をするスーパーをあまり変えません。最初に産地を多少気にすることはあっても市場に出回っているのだから、一々気にしていては日常生活が成り立たないとの思いが強く、最終的には主に値段を判断材料として産地は気にせず購入する人が多いのです。私がセシウム汚染の話をしてもあまり好んで話に乗ってくる人はいませんでした(私だったから?)。

消費者の行動を考える場合に、我々はチェルノブイリ原発事故当時の西ドイツの対応から学ぶべきものがあるのではないかと思います。チェルノブイリから二千キロも離れた西ドイツ(当時は東西ドイツ統合前)でさえ各地がかなり放射能で汚染されてしまいました。一説では今の福島を上回るレベルの土地もあったそうです。それをかの西ドイツ政府も国民に対して事態をより軽く発表していました。それに危機感を抱き具体的行動に出たのは主に小さな子供を持つ親たちであったと言われているのです。私はここで皆さんにプラカードを持ってデモに行こうと言うつもりは全くありません。今必要なことは産業の将来像も含めたエネルギー問題を冷静に考えること。それに今後三百年位は環境中から消失しない放射性物質に汚染された食料問題を、一人一人が科学的な事実に基づいて評価し判断する根気強さなのではないかと思うのです。そしてその根気強さがあってこそ、政府からも事実を引き出せるのではないかと思います。熱しやすく冷めやすいと言われる国民気質のままではいけません。



最後に

我が国は焼け野原から立ち直った国です。それは今の状況よりも遙かに困難でした。我々が方向性を間違えなければ諸問題はきっと乗り越えていけると信じています。その原動力はまずは何と言っても真実の積み重ねと、それに向き合う勇気なのではないかと思います。




2011/9/15発行

医師 小島眞樹

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