ひろば182号 当院のB型肝炎ウイルスによる急性肝炎 − 最近の特徴 −

今回は当院でB型急性肝炎の患者さんから教えられた事を気の付くままにお話したいと思います。その前に、唐突ですが、嘗てこの「ひろば」(158号と164号)で、B型肝炎ウイルス(ここではHBVと略します)のゲノタイプ(遺伝子型)をお話させていただきましたが、そのゲノタイプが今回の話では重要な鍵の一つとなっています。HBVはその遺伝子を構成している塩基の並び方の違いの程度によってグループ分けをしていて、これをゲノタイプと呼んで、そのゲノタイプの名前をそれぞれA、B、C…と名付けていて、しかも互いの性格も異なる、と言う事を思い出していただければと思います。



症例年代性別ゲノタイプ発症年感染源
130A22008パートナーがHBV持続感染者
230A22010国内で女性と接触
320A22010配偶者(症例2)
420A22012同性愛者と同居中に感染
520A22012同性愛者(症例4)と同居中に感染
650B2012中国で女性と接触
740A22013不明
830B2013不明
930A22013海外旅行で現地の女性と接触

当院のHBV感染者の多くはHBV持続感染者(キャリア)です。持続感染者(最近調べた157名を対象)のゲノタイプの頻度をみますと最も多い割合を示すのがゲノタイプCで約70%を占めます。そしてゲノタイプBが28%でした。残りの2%はゲノタイプAでした(「ひろば」158号に掲載)。これに対して、HBVの急性肝炎の患者さんではどうでしょうか。2000年以降の13年間で診た患者数は9名でした(表参照)。しかしその全ては2008年以降の患者さんで、2000年〜2007年にはいませんでした。最近HBVに感染する人が増えつつあります。しかも感染していたHBVのゲノタイプはゲノタイプAが7名、Bが2名と圧倒的にゲノタイプAが多いです。症例数は少ないですが、明らかに持続感染者のゲノタイプの分布とは異なります。まして、年齢は40歳未満で7名と若い男性成人が多くを占めます。嘗て1980年頃までの急性肝炎はゲノタイプBやCでした。それは感染源が主にHBV持続感染者で、その殆どは前述したようにゲノタイプBやCだからです。例えば輸血後B型肝炎、或いはHBV持続感染者の配偶者(特に新婚時代に感染する、いわゆる蜜月肝炎)等が典型例です。ではどうしてゲノタイプBやCの急性肝炎だったのがゲノタイプAに変わってきたのでしょうか。一つは、1986年から本格的に始まった母児間感染予防対策です。この事より、感染源である持続感染者の急速な減少、そして付随的に急性肝炎患者も減少したのです。二つは、もともと日本にも非常に稀でありましたがゲノタイプA(A1とします)は存在していました。しかしこれとは別に、同じゲノタイプAに属するのですが、もとから存在していたA1とは別のグループに属し、欧米を中心として感染が拡がっているA(これをA2とします)が、1990年以降日本に持ち込まれ徐々に感染が拡がっていったようです。ではどうしてゲノタイプA2は拡がったのでしょうか。最近の研究によると、ゲノタイプA2はゲノタイプBやCとは異なった性質がある事が解りました。ゲノタイプBやCの急性肝炎例は感染後3〜4ヶ月以内に血液中からウイルスがいなくなるのですが、ゲノタイプA2の急性肝炎例は半年以上、例えば当院での経験例では9ヶ月程経てからHBVが血液中から消えています。言い換えれば、ゲノタイプA2の感染者は急性肝炎といえども他のゲノタイプよりも長時間ウイルスを血液中に維持しやすいため(遷延すると言います)、感染源としての時間も一層長時間に亘ります。その例として、表中の症例2及び症例4はゲノタイプA2の急性肝炎例ですが、その後症例2の配偶者(症例3)が、また症例4の同居人(症例5)が感染しています。現在の日本では、持続感染者が非常に少ないために、ゲノタイプBやCの急性肝炎を起こす例は稀ですし、ましてその急性肝炎例が感染源となって、配偶者や同居人が感染する例は更に稀な事例です。



HBV感染は体液、特に血液を介して成立します。前述の9名の急性肝炎症例の内、少なくとも7名は性的接触に因る感染(表中の症例7、8は感染源不明)と推測されます。この行為自体は古今東西変わりませんが、現在では性的接触も異性間のみならず同性間でも接触する社会環境にもなりつつあります。しかも、異性間でも同性間でも相手が一人では無く複数との接触で感染の機会を一層増やしています。



患者さんの背景をお聞きしていると、以上のように感染の機会が増えている事が浮き彫りになってきました。血液によって感染するのは、HBVだけではありません。C型肝炎ウイルス(HCV)やエイズウイルス(HIV)も同様に接触した相手が感染していれば、感染する可能性が大きくなります。そして、HBV感染の予防対策はHCV或いはHIV等、HBVと同様に血液を媒介する感染症をも予防するのです。幸いにHBV感染はHBVワクチンにより予防する事ができます。HBV感染者からHBVに感染しないように、また血液が付着しないような予防対策を日々の生活のなかで考え、互いに話し合っていただければと思います。




2013.7.15発行

検査室 研究員

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